4年前の涙と、国立を目指した皇后杯の戦い「涙の価値を決めるのは、これからの私」
人々の挑戦やストーリー。さまざまな「人生」がつながっていくメディアChainLives。今回は、伊賀FCくノ一三重・常田麻友選手のエピソードを紹介する。4年前の悔しさから、皇后杯2025でのベスト4進出へ。彼女は何を感じ、何を抱えてピッチに立っていたのか。

4年前の悔しさと仲間からの言葉
2021年12月23日。
皇后杯4回戦、三菱重工浦和レッズレディース戦の前々日。練習後のメンバー発表で、彼女の名前は呼ばれなかった。
今の自分の力がどこまで通用するのか試せる機会だった。引退や移籍を控えた先輩たちと一緒に闘える、最後になるかもしれない試合。そのピッチに立てない事実が、重かった。
悔しさのまま監督の元へ行き、なぜ選ばれなかったのかを問う。
「その涙を見られて良かった。その涙を、絶対に忘れてはいけないよ」
その夜は、先輩たちとのクリスマスパーティーを約束していたが「ごめんなさい」とメッセージを送った。
先輩から返ってきたメッセージは、自分の痛みを全て理解してくれるものだった。
「来れへんくらい悔しがってる方が、私はいいと思う!」「まだ一緒にサッカーしたいな。みんなで勝って帰るしかないな!」
結局、画面越しに試合を観戦した。敗戦し、涙を流す先輩たちの姿。現地にいられなかった悔しさと、先輩たちへの想いが重なり、自分の涙も止まらなかった。
4年越しのリベンジの機会
あれから4年。
2025年11月23日、宮城県。常田麻友はキャプテンマークを巻いてピッチに立っていた。
この4年間で立場は変わった。試合に出られない側にいた時間を経て、いまはキャプテンとしてチームを背負う側にいる。
皇后杯3回戦。ようやく掴んだ、WEリーグのチームと対戦する機会でもあった。
「あの頃の『自分を見てほしい』とは違う。今は『このチームを勝たせたい』という使命感がありました。でも、心の奥底では、ずっと静かに、でも熱く、この時を待ち望んでいました」
相手は三菱重工浦和レッズレディース。
4年年前の皇后杯で、メンバー表に自分の名前がなかった“浦和”と、同じ大会で向き合う日が来た。

試合は2-1で勝利。試合後、彼女はこう振り返っている。
「自分たちのやってきたことに自信を持って、全員で戦いにいった」
一方で、勝利の直後に並んだ言葉には、素直に納得できなかった。
「ジャイキリ達成」「下剋上」
その見出しが、自分たちが積み上げてきた毎日を“驚きの結果”で片付けてしまうように感じたからだ。
「生意気だと思われるかもしれませんが、私は正直、悔しかった。『驚きの結果』として片付けられてしまうことが、私たちの日常を否定されているようで」
相手との違いを否定したいわけではない。それでも、プロではない場所で、本気で積み上げてきた日々がある。その日々ごと軽くされる感覚に、悔しさが残っていた。
大会を通じて、彼女はこうも言葉にしている。
「プロとアマの壁。それを超えるのは『熱量』でしかない。ピッチでの姿こそが、何よりも私たちの価値を証明してくれる」

「一人で声を上げて大泣きした」
その後の試合でもチームは勝ち上がり、2025年の皇后杯はベスト4まで進んだ。準決勝。決勝をかけて戦った相手はINAC神戸だった。
「もう一つ、二つ勝って、私たちのサッカーを証明したかった」――。
そこまで手が届きかけていたからこそ、負けた夜の反動は大きかった。このチームで戦うことのできる最後の試合になった。
「一人で声を上げて大泣きしました。自分でも驚くほど、涙が止まりませんでした」
けれども試合後、彼女のもとにはいくつもの言葉が届いた。
「勇気と感動をありがとう」「応援したいと思えるチームだった」「市民の励みになった」
勝てなかった事実は変わらない。
それでも、その言葉によって、チームが戦う意義、クラブが存在する意義が輪郭を持った。
あの時の涙を忘れず、4年間積み上げてきた。そしてここから、新たに積み上げていく。
「本気で流した涙は、必ずいつか、自分をより強く、より優しくしてくれることを。あの日の悔し涙が今の私を作ったように、今回の誇りある涙もまた、私の新しい力になると信じています」
クラブ創設50周年を迎える2026年シーズン。常田麻友はチームと共に、さらに強くなった姿を見せてくれるはずだ。
